ガレージ探訪
アートと機械美が共鳴するガレージ
福島県/H邸
シャッターが静かに持ち上がる。黒とグレーで統一された空間に、計算されたスポットライトの光線が走る。そこに浮かび上がるのは、ひときわ低く構えた一台のスーパースポーツ―・ホンダNSX。
まるでフォトギャラリー。いや、それ以上に「作品展示空間」と呼ぶほうがふさわしい。
壁面には写真家・青柳陽一氏の作品パネル。無機質なコンクリートの質感と、NSXの官能的な曲面が呼応し、機械とアートが同じ呼吸で存在している。
ここは、単なる愛車の保管場所ではない。美意識と人生観が交差する“完成された舞台”である。

20年寄り添う、終のクルマ
―このガレージと愛車の関係は?
「NSXは所有して20年になります。いつかクルマとバイクを並べられるガレージを作ろうと、7~8年前から断熱材を貼ったり準備はしていたんです。でも本業の建築が忙しくて、ずっと中断していました」。
転機は、青柳氏との交流だった。ご実家のリフォームや写真学校閉設に携わる中で親交を深め、写真パネルを譲り受けたことが、この空間づくりを再始動させた。
「この作品を最高の状態で飾れる場所を作りたい」。その想いが、眠っていた設計図を一気に現実へと押し上げた。
若いうちに、全力で楽しめ
―NSX購入のきっかけは?
「家業の屋根工事店を継いだ後に住宅事業部をスタートさせた際、打ち合わせ中のお客様に“いつかNSXを買いたい”と話したら、『年をとってからじゃスポーツカーは楽しめないよ』と言われて。そのタイミングで金融機関の担当者から『口座に動かない資金がありますがどうされますか?』との連絡があり、渡りに舟!と、その一部でオークションからNSXを購入しました」。
勢いではない。覚悟だった。NSXはガレージの奥に眠る存在ではない。遠隔地のお客様との打ち合わせにも、日常の足にも使ってきた“相棒”だ。ミッドシップレイアウトがもたらす回頭性。アルミモノコックが生む軽快さ。VTECが高回転域で弾ける瞬間の官能。
HさんにとってNSXは、最初から「終のクルマ」。たとえ免許を返納しても、手放すつもりはないという。

バイク24台という別世界
ガレージ奥のゾーンに足を踏み入れると、空気が変わる。
2ストロークの名車 YAMAHA RZ250(外装350)。デザインコンシャスなドゥカティMH900e。空冷Lツインの鼓動を刻むドゥカティ900SSなどなど。
現在所有台数は、レストアベースを含めて24台。「ナンバー付きは5台ですが、順番にレストアしながら楽しみます」とHさん。
旧車特有のキャブ調整、電装トラブル、パーツ探し。それらすべてが“苦労”ではなく“物語”になる。気がつけば増殖していたというバイク群だが、その表情はどれも誇らしげだ。



建築家の美学が宿る空間設計
既存建物をフルリノベーションして完成したこのガレージ。設計・施工管理はもちろんHさん自身。高断熱化による温度管理、黒×グレーの色温度設計、光の角度まで計算したスポット配置、視線誘導を意識した空間レイアウト。「決められたスペースをどう割るか。それが一番楽しかった」と語る。建築家ならではの緻密な空間設計が、機械を“展示物”へと昇華させた。
2階はラウンジという名の秘密基地。階段を上がると、そこは別世界。
シューティングゲーム機、ヴィンテージオーディオ、カメラ機材、仲間と語らうソファー。
飲み会が始まり、気付けば午前様。まさに“大人の隠れ家”だ。
クルマとバイク、写真、音楽、ゲーム。すべての趣味が一つの建物に集約されている。



そして次の構想へ
すでにHさんの頭の中には次の計画がある。棟隣の駐車スペースを、全天候型のバイクメンテナンスルームへ。シャッター設置、床材選定、空調計画……。夏でも冬でも快適に作業できる環境を構想中だ。
ガレージは完成した瞬間がゴールではない。むしろそこからが“進化”の始まりだ。
機械を飾るのではなく、人生を展示している。NSXという日本が誇るスーパースポーツ。24台のバイクという時間の集積。写真作品という芸術・・・。
それらが混ざり合い、違和感なく溶け込む理由はただ一つ。すべてがHさんの人生の延長線上にあるからだ。
このガレージは、クルマ好きの理想形であり、建築家の作品であり、そして少年の心を忘れない大人の証明でもある。
